相続税について ー 計算方法と注意事項ー

遺品整理作業でお伺いしたお客様の中には、突然の不幸に見舞われ憔悴しきっている中で、さらに相続税について心配される方がいらっしゃいます。
相続税の申告・納付は「死亡を知った日から10か月以内」に行う必要があります。「10か月しかない」と考えるか「10か月もある」と考えるかは人によって違うでしょうが、普通の家庭であればまず支払う必要はないと考えた方がいいです。
以下に、簡単な計算方法と注意点についてお話しします。

1⃣ 相続税の計算方法

相続税の計算は、以下の⑴から⑶の手続きで計算します。
⑴ 課税対象となる遺産総額の算定
相続財産となるものと非課税となるものに以下のものが該当します
➀相続財産
・現金、預金
・株式、債券の有価証券(家族で所有または経営していた未上場の会社の株式も含まれます)
・土地、建物の不動産
・自動車、骨董品、絵画など
➁みなし相続財産
・生命保険(受取人が相続人であるもの)、死亡退職金など
(生命保険の掛け金を被相続人以外が支払らっていた場合は、相続税ではなくその支払っていた人の「所得税」の対象になります)
➂相続開始前の3年以内の贈与財産
➃非課税財産となるもの
・生命保険の非課税金額(非課税限度額:500万円×法定相続人数)
・葬儀費用
・被相続人の債務
➄基礎控除額
・3,000万円+(600万円×法定相続人数)

従って、課税遺産総額は
課税遺産総額 = 相続財産(➀相続財産+➁みなし相続財産+➂相続開始前の3年以内の贈与財産)-➃非課税財産となるもの-➄基礎控除額
となります。
ここで課税遺産総額が≦0ならば、ここで終わりです。(つまり相続税納付の必要はありません)
先に、「普通の家庭であれば、相続税が発生しない」というのは、相続人が3人いれば(配偶者・子2人)、課税遺産総額が5,000万円弱であれば基礎控除等によりはほぼ0となるからです。

⑵法定相続分に応じた仮の相続税額の計算
相続税の総額は、実際の遺産分割に関係なく法定相続分に応じて財産を相続したと仮定して算出しします。
例えば、相続人が配偶者と子供2人の場合では、配偶者が遺産の2分の1を、子供がそれぞれ4分の1を相続したとして計算します。
税率と相続財産額に応じた控除額は以下の表によります(令和3年4月1日現行法令)

相続税率

相続した財産の金額税率控除額(万円)
1,000万円以下10%
1,000万円超
3,000万円以下
15%50
3,000万円超
5,000万円以下
20%200
5,000万円超
1億円以下
30%700
1億円超
2億円以下
40%1,700
2億円超
3億円以下
45%2,700
3億円超
6億円以下
50%4,200
6億円超55%7,200

⑶実際の家族間での遺産の分割・取得
各相続人の遺産分割については、「遺言書」があればそれに従うことになります。ない場合は、家族間で遺産をどう分割するかは関係者で協議して決めることになります。各相続人がどの財産をいくら相続するかは自由に決められます。
各相続人間で納得する遺産分割が決まったら「遺産分割協議書」という形で書面で残しておくことが望ましいです。「遺産分割協議書」の内容として、財産目録、各相続人の相続財産の内訳、各相続人の署名・押印が必要です。そして、相続時の必要書類として、被相続人との血縁関係を証明する各相続人の「戸籍謄本」各相続人が遺産分割協議書に押印した印鑑証明書をセットにして用意しておくと、後々楽になります。

⑷実際の取得に応じた各相続人の負担税額の計算
⑴で求めた相続財産総額に対する実際に各相続人が相続した財産の割合に応じて、⑵で算出した相続税の総額を案分します。

⑸特例や控除を活用する
⑷で算定した各相続人の相続税額に対して、特例や控除を適用して最終的な各相続人の相続税額が決定します。

*具体例
以下のような具体例で、計算してみましょう

相続人数及び遺産総額
相続人 : 配偶者、長男、長女     相続財産 : 2億6,900万円
遺産分割協議内容
配偶者 : 不動産 1億円、有価証券3,000万円、預貯金等2,000万円、債務500万円 葬儀費用100万円
長男  : 有価証券1,000万円 預貯金2,000万円 死亡保険金2,000万円、 自動車1,000万円
長女  : 有価証券900万円、預貯金5,000万円

⑴課税遺産総額の計算
相続財産2億6,900万円-非課税財産2,100万円{(死亡保険金 500万円×法定相続人数3人=1,500万円)+(債務500万円+葬儀費用100万円)}-基礎控除額4,800万円(3,000万円+600万円×法定相続人数3人)=2億円

⑵法定相続分に応じた仮の相続税額の計算
配偶者 : 1億円(2億円×法定相続分1/2)×税率30%-700万円=2,300万円
長男  : 5,000万円(2億円×法定相続分1/4)×税率20%-200万円=800万円
長女  : 5,000万円(2億円×法定相続分1/4)×税率20%-200万円=800万円

よって、相続税の総額は2,300万円+800万円+800万円=3,900万円となります

⑶実際の取得に応じた各相続人の負担税額の計算
⑵で算定した相続税総額を各相続人が実際に相続した財産に応じて案分します(基準となる財産額は総財産額から非課税財産と債務を除いた金額です)
配偶者 : 3,900万円×{(1億円+3,000万円+2,000-500万円-100万円)/(2億6,900万円-死亡保険1,500万円-500万円-100万円)}=2,264.5万円
長男  : 3,900万円×{1,000万円+2,000万円+(死亡保険2,000万円-控除額1,500万円)+1,000万円}/(2億6,900万円-死亡保険1,500万円-500万円-100万円)}=707.7万円
長女  : 3,900万円×(900万円+5,000万円)/(2億6,900万円-死亡保険1,500万円-500万円-100万円)}=927.8万円

配偶者2,264.5万円+長男707.7万円+長女927.8万円=3,900万円で

⑷相続税の特例や控除を適用して各相続人の納付すべき相続税額を決定
この場合、配偶者に対して「配偶者の税額軽減」を適当できるので、各相続人が納付すべき相続税額は
配偶者 : 1億6,000万円の相続資産には税金はかからない 0円
長男  : 707.7万円
長女  : 927.8万円
となります。

2⃣減税のために注意すべき事項

⑴相続資産の評価の問題
先の1⃣⑴で述べた課税遺産総額が小さくなれば相続税が不要あるいは減額できることになります。そこで相続の対象となる資産総額を算定するにあたって問題となるのは、現金以外の資産の評価方法です。
すべての資産を現金価格に換算する必要があります。例えば、骨董品や自動車などは2~3社の査定してもらい平均値を評価額とするのが無難です。
問題は不動産の評価額、特に土地です
建物は、市町村からくる「固定資産税税納通知書」に記載のある「課税標準額の家屋」欄の金額を用いて問題ありません。
土地は、原則として「路線価方式」か「倍率方式」を使って評価します。どちらを用いるかは対象の土地の形状等を考慮して決まります。
おおむね、対象の土地が市街地や住宅地にある場合は路線価方式を用いることが多く、人口が少ない地方や田畑、山林、原野等の場合には倍率方式を使うことが多いです。
国税庁のサイトでどちらの方式を提供する土地であるか確認してください。(お亡くなりになった直近の年に公表されたものを使ってください)
路線価方式の場合の計算方法は、地図から対象となる土地を探し、その土地が接する道路に路線価(様々な道路に1㎡当たりの評価額が千円単位で記載されています)が表示されていますので、それに対象となる土地の広さ(㎡)をかけて求めることができます。
しかし、すべの土地が公表されている路線価の対象となる道路ときれいに接道しているわけではありません。公道に接した私道に接道した土地もありますし、土地の形状や状況も様々です。例えば、形状がいびつである土地(不整形地補正)、間口(道路に接している部分)が短い(間口狭小補正)、間口の広さに対して奥行きが長い土地(奥行長大補正)は、補正をすることにより評価額を下げることができます。
また、賃貸マンション・賃貸アパートの土地の評価も下げることができます。
倍率方式の場合は、「固定資産税税納通知書」に記載のある「課税標準額の土地」欄の金額に倍率をかけて評価額を出します。倍率方式が適用される土地は、元々辺境地であったり、周りを山林などで囲まれているため、路線価方式の補正を加味しているのと同じことです。
これらの補正が必要な土地の相続税の申告にあたっては、不慣れな税理士さんでは正確な評価額を算定できない場合があります。
中には、申告期限が迫っていたり、過少申告による自身の責任を問われるのを恐れて正しい補正評価をしない税理士が多いです。
相続する土地が、形状がいびつであったり、道路から奥まったところにある土地の場合は、相続税を専門としている税理士さんや不動産鑑定士さんに土地の評価を依頼するなどしたほうが得策です。
逆に、相続税申告後5年以内であれば修正申告をすることにより、過払いの相続税を取り戻すことも可能です。
相続税の申告を終えた方でも、心当たりの方は修正申告を検討してみてはいかがでしょうか。

⑵遺産分割協議は遺恨を残さぬように
各相続人がどの財産をどれくらい相続するかは、時として「争族」の原因となります。話し合いで解決できない時は、代理人をたてたり、裁判まで発展することもあります。せっかくの遺産が、弁護士報酬や裁判費用で目減りしてしまいます。なるべく親族間で穏便に話し合って決めましょう。
また、相続税を減らすという観点では、次に述べる相続税の特例や控除を知った上で、誰がどの財産を相続するのが得かを検討するとよいでしょう。

⑶相続税の特例や控除の適用方法
税額からの控除
・配偶者の税額軽減
・未成年者控除
・障碍者控除
・相次相続控除
・贈与税額控除
いくつかありますが、このうち「配偶者の税額軽減」についてお伝えします。
配偶者の税額軽減額=相続税の総額✕下記㋐㋑の少ない方の金額/全員の課税価格の合計額
㋐ 課税価格のうち配偶者の法定相続分または1億6,000万円のいずれか大きい額
㋑配偶者の相続する課税価格
分かりにくいですが、つまり、被相続人の配偶者の取得する遺産の課税価格がその法定相続分にあたる額または1億6,000万円以下である場合には、税額控除により配偶者の納付すべき相続税額はゼロになるということです。
これは、不謹慎な言い方ですが、被相続人の配偶者が近いうちにお亡くなりになりまた相続手続きが行われる可能性が高い為です。ですので、相続税申告期限までに親族間での遺産分割が決まらないのであれば、一旦配偶者に限度額上限まで継承してもらい、次の相続手続きの機会で再び遺産分割協議で決める方法もあります。

課税価格の特例
・小規模宅地等の特例
この制度がもっと利用される制度です。
被相続人が住居などに使用していた宅地を相続した場合に、330㎡(事業用の場合には400㎡)までを限度とする部分の評価を8割~5割減額できる制度です。
被相続人の配偶者である場合、あるいは同居親族で申告期限までその宅地等を所有し、かつその宅地等に居住している者である場合に適用できます。なお、同居していない親族が取得した場合でも、自己又は自己の配偶者の持家に住んでいない等の条件を満たす場合には、この特例の適用ができます。(家なき子の特例
ですので、被相続人の土地を誰が相続するのかで揉めた場合、被相続人と同居していなくても、自己の持家が無い者が相続する方が税金上は得策になります。

相続税について難しく考えずに、下記のホームページなどを参考にして、ご自身でざっくり計算した上で専門家(弁護士や税理士)に依頼するかを検討しましょう。一般の方は、ほぼ申告義務が発生しないと考えて差し支えないと思います。一般でない方(例えば、上場企業の創業家など)は、相続が始まる前からの専門家による相続税対策は必須となります。もっとも、税金に関して最も優遇されているのは政治家ですけどね・・・(なんせ政治家のカバン(お金)は一切税金かかりませんから)

≪参考≫
国税庁 相続税
相続について<相続税の計算方法>
相続税を減らすために利用できる特例と各種控除の一覧とそのポイント(相続税申告相談プラザ)
小規模宅地の「家なき子の特例」とは

コメントを残す